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あすなろ物語 [日本の近代文学]

 「あすなろ物語」 井上靖 (新潮文庫)


 6つの短編を通して、鮎太の少年期から壮年期までを描いた、自伝的作品です。
 1954年に出て、若者を中心に広く読まれました。映画にもなっています。


あすなろ物語 (新潮文庫)

あすなろ物語 (新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1958/12/02
  • メディア: 文庫



 この本を、私は高校時代の読書会で、課題図書として読みました。
 「春の道標」とともに、高校時代に最も刺激を受けた作品です。

 明日はヒノキになろうと願いながら、決してヒノキになれない翌檜(あすなろ)。
 翌檜の木に託した6つの短編を通して、梶鮎太という男の半生を描いています。

 「深い深い雪の中で」は、鮎太が祖母と土蔵暮らしをしていた13歳の頃の話。
 19歳の冴子(さえこ)という美しい少女と、同居することになりましたが・・・

 冴子から頼まれたことは・・・加島という大学生に教えられたことは・・・
 そして、突然訪れる悲劇。6編の中で最も劇的で、印象に残る物語です。

 「寒月がかかれば」は、鮎太が禅寺に寄宿して中学に通っていた中三の頃の話。
 お寺の活発な少女雪枝に、勉強以外にも大切なことがあると教えられて・・・

 「漲(みなぎ)ろう水の面より」は、高校を卒業し九州の大学に進んだ頃の話。
 鮎太の心の中で、高校時代に知り合った佐分利夫人がいつまでも生き続け・・・

 ひとり東京を離れた自分。バラバラになってしまったかつての仲間の絆。
 そして、相変わらず美しい佐分利夫人が言ったことばは・・・

 「貴方は翌檜でさえもないじゃあありませんか。
 貴方は何になろうとも思っていらっしゃらない」(P127) 

 「春の狐火」は、鮎太が大阪で新聞記者として働き始めたばかりの頃の話。
 佐分利夫人の面影が忘れられない中で、先輩記者の妹と出会いましたが・・・

 佐分利夫人が登場するこの二編が、初めて読んだ当時、最も刺激的でした。
 自分もそんな女性に出会うだろうかと考え、怖くもあり、楽しみでもありました。

 そして「春の狐火」には、一瞬狐につままれたような美しい出来事があります。
 当時ピンとこなかったこのシーンの魅力が、今回再読して初めて分かりました。

 「勝敗」は、遊軍記者として活躍し、ライバルの左山と競っていた頃の話。
 「星の植民地」は、終戦後に家族と離れて一人、東京で暮らしていた頃の話。

 最後の二編は、他の四編に比べてあまり面白くなかったです。
 原因は、鮎太がもう若くないという点と、ヒロインがイマイチという点です。

 特に、最終話の鮎太の行動には、高校時代にとても失望しました。
 熱烈な恋愛はできないくせに、こそこそとつまらない女と浮気をする男!

 かつての神童が平凡な人生をたどり、ここまで落ちたかと悲しくなりました。
 人生というもののほろ苦い部分を、私はこの本から学んだのかもしれません。

 自分はこんな平凡な人生を歩みたくないと、当時は思ったものです。
 しかし、振り返ってみると、私は鮎太に負けず平凡な人生を歩んでいました。
 (ま、いいのだけど)

 さて、井上靖には、他にも有名で魅力的な作品がたくさんあります。
 「しろばんば」「夏草冬涛」などの自伝的小説は、ぜひ読んでおきたいです。


しろばんば (新潮文庫)

しろばんば (新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1965/04/01
  • メディア: 文庫



夏草冬涛 (上) (新潮文庫)

夏草冬涛 (上) (新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1989/06/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(椋鳩十)

 娘が時々音読をするので、小学5年生の国語の内容はだいたい分かります。
 このあいだまでやっていた椋鳩十の「大造じいさんとガン」は良いですね。


大造じいさんとガン (偕成社文庫3062)

大造じいさんとガン (偕成社文庫3062)

  • 作者: 椋 鳩十
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1978/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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春の道標 [日本の近代文学]

 「春の道標」 黒井千次 (新潮文庫)


 高校2年の明史と中学3年の棗の甘く切ない恋愛を、瑞々しく描いた青春小説です。
 1981年に刊行されて、読書感想文の課題図書となり、特に若者に読まれた作品です。


春の道標 (新潮文庫)

春の道標 (新潮文庫)

  • 作者: 黒井 千次
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/06
  • メディア: 文庫



 高校2年の明史(あけし)には、慶子(けいこ)という一つ年上の恋人がいました。
 しかし、慶子のペースに戸惑い、「親友でいたい」と訴えて、関係は途絶えました。

 ちょうどその頃、明史の心は、毎朝顔を合わせる少女の方に、動かされていました。
 少女は棗(なつめ)という名前で、まだ中学3年生でした。

 明史が棗に声を掛けてから、2人は急接近していきます。
 一緒に登校し、学校祭に招待し、丘に登って散策し 、同じ高校への入学を勧め・・・

 ところが、棗には小堀という大学院生の家庭教師がいて、家族同然の間柄でした。
 そして、明史と棗はお互いに惹かれながらも・・・

 この小説を知ったのは、私が高校3年生の頃でした。
 学校の授業で、共通一次試験の過去問題を解いていたときのことです。

 そう、この小説は1980年代に、共通一次(現センター)試験で出題されたのです。
 明史と棗のことが気になって、本屋で購入して、受験勉強そっちのけで読みました。

 岩波文庫の白帯を持っていた棗。「生きているのって、哀しいな」とつぶやく棗。
 齧り跡のついたリンゴに口を重ねる棗。丘の上で二人きりになったときの棗。

 その頃、棗は、本読み仲間のヒロインでした。だから、あの結末は許せなかった!
 「大事なお友達に、なれると思う・・・」「地獄だよ、そんなの。」

 あれから30年以上たって、久しぶりに読み返し、当時と同じ感動を味わいました。
 ところが、以前とは違った部分も、また見えてきて面白かったです。

 あの頃は一方的に「棗が悪い」と思っていたけど、明史にも問題ありですね。
 結局、明史は自分が慶子にした同じことを、棗にされたわけです。

 また当時は、明史の背伸びしたところや、甘えたところに、腹が立ちましたが、
 今回は、そういう所がかわいく思えて好感が持てました。年のせいでしょうか。

 さいごに。(紅葉)

 先日、家から2時間ほどの場所へ、家族で紅葉を見に行きました。
 とてもきれいでした。紅葉は、仕事で疲れた心を癒してくれます。

紅葉ツアー.jpg

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君たちはどう生きるか [日本の近代文学]

 「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎 (岩波文庫)


 様々な出来事を通して成長する中学生のコペル君と、それを見守る叔父さんの話です。
 今年2017年に、その漫画版がベストセラーになり、たいへん注目を集めています。


君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

  • 作者: 吉野 源三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/11/16
  • メディア: 文庫



漫画 君たちはどう生きるか

漫画 君たちはどう生きるか

  • 作者: 吉野源三郎
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2017/08/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 コペル君というのは、もちろんあだ名です。本名は本田潤一。中学2年生です。
 どうして叔父さんに「コペル君」と呼ばれるようになったかというと・・・

 本田潤一はある日、ビルの屋上から下を見下ろして、変な感覚に襲われました。
 叔父さんに、「人間て、まあ、水の分子みたいなものだねえ。」と言います。

 彼はこのとき、自分中心の物の見方から脱して、客観的な視点に立てたのです。
 これを叔父さんは、天動説から地動説へのコペルニクス的転換と考えて・・・

 この後コペル君は、様々な体験をし、叔父さんから多くの教えを受けます。
 感動を呼ぶ行動とは? 学問の意味は? 人間の本当の価値は? 英雄とは?

 私は特に、三章の「ニュートンの林檎と粉ミルク」と、九章の「水仙の芽とガ
 ンダーラの仏像」の話が好きです。こういうことの言える大人になりたいなあ。

 それにしてもこれが、80年も前に書かれた作品とは思えません。
 現代でも通じる、生きるために必要な考え方が、ぎっしりと詰まっています。

 マンガとなって蘇り、多くの若者に読まれている状況は、たいへん喜ばしい。
 TV番組「世界一受けたい授業」で紹介されて、大きな反響があったようです。

 しかも、宮崎駿監督でアニメ映画になるというではありませんか。(ホント?)
 これほどブームになるとは、20年前に私が読んだ時には考えられなかったです。

 さいごに。(今年の我が家のニュース募集開始)

 大みそかに我が家では、「今年の我が家のニュース」ベスト10を発表します。
 12月になったので、ベスト10候補の募集を始めました。

 今後、リビングに置いたボードに、各自勝手にベスト10候補を記していきます。
 私のベスト1ニュースはなんといっても「転勤」です。忙しくなった!

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修禅寺物語 [日本の近代文学]

 「修禅寺物語」 岡本綺堂 (長倉書店)


 面作り師「夜叉王」の娘「桂」と二代将軍源頼家との、愛と宿命を描いた戯曲です。
 作者を代表する戯曲で、上演と同時に大評判になった新歌舞伎の名作です。

 長倉書店から文庫版で出ていました。表紙は「頼家の面」です。現在は絶版。


修禅寺物語

修禅寺物語

  • 作者: 岡本綺堂
  • 出版社/メーカー: 長倉書店
  • 発売日: 2013
  • メディア: 文庫



 現在、なかなか手に入りにくい本ですが、キンドルではなんと0円です。


修禅寺物語

修禅寺物語

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: Kindle版



 面作り師の夜叉王は、修禅寺に幽閉されていた頼家に、面を依頼されていました。
 しかし、なぜか頼家を写した面は、なかなか満足のいくものになりませんでした。

 ある日、しびれを切らした頼家の怒りを買い、夜叉王は斬られそうになりました。
 娘の桂(かつら)が試作品の面を渡すと、頼家は満足してそれを持ち帰りました。

 ところが、夜叉王の職人気質は、その処置に納得できません。
 一方、桂は頼家のもとに奉公し、頼家に愛されるようになりました。

 やがて頼家と桂に襲いかかる、恐ろしい運命。そのとき桂がとった行動は?
 のちに分かった、夜叉王が納得できる面を作れなかった理由とは?

 この戯曲の魅力は、なんといっても桂の激しい感情と行動力です。
 人生をひたすら駆け抜け、一瞬ぱっと輝き、そして燃え尽きてしまう。

 「いたずらに、百年千年いきたとて何となろう。たとい半とき一ときでも、
 将軍家のおそばに召し出だされ、若狭の局という名をも給わるからは、これ
 で出世の望みもかのうた。死んでもわたしは本望じゃ。」(P38)

 また、結末がすごいです。父の夜叉王が、桂の最期のときにしたことは?・・・
 芥川龍之介の「地獄変」を連想しました。


改編 蜘蛛の糸・地獄変 (角川文庫)

改編 蜘蛛の糸・地獄変 (角川文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1989/04/01
  • メディア: 文庫



 岡本綺堂は、修禅寺で「伝・頼家の面」を見て、この戯曲を書き上げたそうです。
 その面は今も、宝物館で見ることができます。私は1999年に見ました。

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 この宝物館のショップで、私は「修禅寺物語」を購入しました。1000円でした。
 長倉書店という所から出版されていました。地元修善寺の書店らしい。

 「修禅寺物語」ほか「頼家の仮面」「修禅寺物語」「秋の修禅寺」「春の修禅寺」
 などのエッセイが収録されています。修禅寺ファンにはたまらない編集です。

 結婚後まもなく、妻と一緒に修善寺を巡ったのも、とても懐かしい思い出です。
 頼家の墓や範頼の墓を、歩いて周りました。あのころは、若かった!

 さいごに。(声をかけないで)

 昨日の土曜日、娘の小学校では、参観会がおこなわれました。
 娘の座席は一番後ろなので、声をかけたくなってしまいました。

 しかし、前日に釘を刺されていたのです。「パパ、私に声をかけないでよ」と。
 「私が恥ずかしい思いをしたら、1週間話さないからね。」とも言われました。
 声をかけたかったけど我慢しました。1週間話してもらえないのはつらいので。

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坊っちゃん [日本の近代文学]

 「坊ちゃん」 夏目漱石 (集英社文庫)


 四国の中学に赴任した江戸っ子の「坊ちゃん」が、悪党をこらしめる物語です。
 漱石の初期の痛快な青春小説で、多くの読者に愛されている中編小説です。

 名高い名作なので、あらゆる文庫から出ていますが、注目は集英社文庫です。
 カバーが美しく(リンクの写真とは別の下の写真)、冒頭の口絵写真が貴重。


坊っちゃん (集英社文庫)

坊っちゃん (集英社文庫)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1991/02/01
  • メディア: 文庫



P1070903-2.jpg

 新潮文庫版・岩波文庫版も定番です。
 古典的名作なので、ネットの青空文庫で読むこともできます。(無料!)


坊っちゃん (新潮文庫)

坊っちゃん (新潮文庫)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 文庫



坊っちゃん (岩波文庫)

坊っちゃん (岩波文庫)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/05/01
  • メディア: ペーパーバック



 「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」(P7)
 坊っちゃんはけんかっ早いので親から冷たくされ、味方は下女の清だけです。

 学校を卒業したあと、都会を離れて、四国の中学校に単身赴任しました。
 しかし江戸っ子の坊っちゃんには、気に食わないことばかりでした。

 一方同僚に、狸、赤シャツ、のだいこ、うらなり、山嵐とあだ名をつけます。
 そそっかしい坊っちゃんは、赤シャツの言葉を信じ、山嵐と距離を置きました。

 しかし、うらなりが婚約者マドンナを、赤シャツに奪われたことを知り・・・
 赤シャツの陰謀を知った坊ちゃんは、山嵐と一緒に計画を練って・・・

 ストーリーも痛快ですが、文体もまた歯切れよく、リズムが小気味いいです。
 また、なんといっても主人公の坊っちゃんがいい。本当に楽しい作品です。

 「坊っちゃん」は、夏目漱石の作品のマイ・ベストです。何回読んだことか!
 高校時代に初めて読んでから、私の愛読書のひとつとなっています。

 新潮版とちくま(全集)版で読んだのに、今回、集英社版も買ってしまいました。
 集英社文庫は、現在少しずつ、漱石の作品のカバーを新しくしているので。

 最初に読んだ新潮文庫は、若い頃バイクで四国を回った時に、持っていきました。
 松山のユースホステルに泊まった時、部屋で拾い読みをしたのを覚えています。

 道後温泉は早朝の開館前から50人以上いて、その行列に並んで読んでいました。
 6時半に太鼓の音とともに入館しました。その後、あの本は行方不明です。

 ついでながら、近くに子規記念館もあって、私は2時間半もそこにいました。
 その時持っていった「病牀六尺」と「墨汁一滴」は、今でも書棚にあります。

 「病牀六尺」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-01-20
 「墨汁一滴」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-01-07

 さいごに。(若い頃の思い出)

 私がバイクで四国を一周したのは、社会人4年目。1993年で、26歳でした。
 懐かしい! 車に慣れた今、大きなバイクは、怖くて乗ることができません。

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野火 [日本の近代文学]

 「野火」 大岡昇平 (新潮文庫)


 肺病で中隊から見捨てられた田村の、レイテ島での極限状況を描いた小説です。
 自身の体験をもとに書いた、大岡昇平の代表作で、戦争小説の永遠の名作です。


野火 (新潮文庫)

野火 (新潮文庫)

  • 作者: 大岡 昇平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1954/05/12
  • メディア: 文庫



 肺病の田村一等兵は、芋を六本与えられただけで、中隊を追い出されました。
 彼が受けた命令は、病院に引き返し、入院できなければ自決しろというものです。

 病院の前では、同じように隊から追われた多くの兵たちが、座り込んでいました。
 そこで、顔なじみの安田と永松に再会して・・・翌朝、砲声で目覚めると・・・

 私がこの小説を初めて読んだのは、大学時代です。
 二十代の私は、この作品を、戦争小説というよりも、冒険小説として読みました。

 先月「100分de名著」で取り上げられたのをきっかけに、久々に読み直しました。
 五十になった私は、この小説を、哲学小説として読んだような気がします。

 死の意識と自由、自然の生命力、戦場経済、十字架、発作的殺人、銃、死の観念、
 ある夜に見た火、聞こえてきた声、万物に見られている感覚、人肉食、神、狂気。

 本当に、様々な場面で、様々なことを、考えさせられる小説でした。
 中でも特に、印象に残っているのが、ある夜に見た動く火の場面です。

 「ある夜、火は野に動いた。(中略)人の通るはずのない湿原を貫いて、提灯ほど
 の高さで、揺れながら近づいて来た。/私の方へ、どんどん迫って来るように思わ
 れた。」(P147)

 この「火」は何だったのか? タイトル「野火」とどんな関係があるのか?
 直後、人肉を食べたい発作に襲われることから、大事な場面だと思うのですが。
 (「100分de名著」でも、島田雅彦が問題提起していました。)

 「野火」には「野焼きの火」以外にも、「突如出現する怪火」の意味もあります。
 この「火」は、ヒトダマなのか? 万物または神による、なんらかの合図なのか?

 この問題に、自分なりの解答ができた時、この小説がぐっと近くなると思います。
 が、現在の私には、まだよく分かりません。

 さて、「野火」のあとは「レイテ戦記」を読む、というパターンがあります。
 しかし、この作品は長いし、内容的にも重たいので、私は読む気がしません。

レイテ戦記 (上巻) (中公文庫)

レイテ戦記 (上巻) (中公文庫)

  • 作者: 大岡 昇平
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1974/09/10
  • メディア: 文庫



 「俘虜記」も、戦争文学で、大岡の代表作です。
 「野火」の感動が残っているうちに読んでおきたいです。

俘虜記 (新潮文庫)

俘虜記 (新潮文庫)

  • 作者: 大岡 昇平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/08/14
  • メディア: 文庫



 さらに、「武蔵野夫人」も読みたいです。戦争文学ではありません。
 スタンダールの手法を意識した作品だそうです。

武蔵野夫人 (新潮文庫)

武蔵野夫人 (新潮文庫)

  • 作者: 大岡 昇平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1953/06/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(欲しいものが無いという不幸)

 今年も、ひとり娘の誕生日が来ました。11歳になります。びっくりです。
 このブログを始めた頃、娘はまだ3歳でした。

 娘に「プレゼントは何がいいか」と聞いたところ、「特に無い」という返事。
 欲しいものが無いというのは、物に恵まれた時代特有の不幸かもしれません。

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パニック [日本の近代文学]

 「パニック・裸の王様」 開高健 (新潮文庫)


 ネズミの大発生による騒動を描いた「パニック」など、短編全4編を収めています。
 サントリー宣伝部時代の1957年~1959年に書いた、作者の初期の傑作短編集です。

 「知的な痴的な教養講座」で開高健の語り口にしびれたら、次はぜひ小説を読みたい。
 新潮文庫のこの本は、芥川賞受賞の「裸の王様」など、傑作ぞろいでオススメです。


パニック・裸の王様 (新潮文庫)

パニック・裸の王様 (新潮文庫)

  • 作者: 開高 健
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1960/06/28
  • メディア: 文庫



 「パニック」は、ネズミの大発生と、それに翻弄される人間を描いています。
 主人公の俊介は、県庁山林課で、鼠害を最小限に食い止めるために戦います。

 120年ぶりに笹が実を結び、地下ではネズミたちの大繁殖の兆しが見られました。
 俊介は被害を未然に防ぐため、上司に対策を提案しますが、相手にされません。

 怠惰な組織は、問題が表面化するまで、リスクのある行動を取らないのです。
 そして問題が表面化すると、責任のなすりつけとごまかしに走るのでした・・・

 ネズミと戦う俊介は、同時に腐敗した組織と戦っています。
 そして悲しいことに、俊介自身も腐った手の中に、からめ取られていくのです。

 暴走するネズミたちが、私には天から遣わされた生き物のように思えてきました。
 彼らは社会の腐敗を一掃するという使命を与えられ、やって来たのではないか?

 そして驚くべき結末! 最後は怒りと虚脱感と、なぜか感動でいっぱいでした。
 わずか60ページですが、とても強烈で、開高健の作品中最も印象的な作品です。

 「裸の王様」は「パニック」と並ぶ代表作で、芥川賞受賞作でもあります。
 画塾を経営している「僕」と、生徒の大田太郎の心の交流を描いています。

 太郎は大商人の一人息子ですが、家庭では疎外されてどこか歪んでいました。
 「僕」は太郎と一緒に川原で遊ぶなどして、彼の心を徐々に開いていき・・・

 解説では、「作者は打算と偽善と虚栄と迎合にみちた社会のなかで、ほとんど
 圧殺されかかっている生命の救出を描いている。」と、うまくまとめています。

 太郎が描いた裸の王様は、欺瞞に満ちた大人たちをも表しているのではないか。
 「王様は裸だ!」という小さい叫び声が、どこからか聞こえてきそうでした。

 「巨人と玩具」は、製菓会社のキャラメル販売合戦の徒労を描いています。
 身を粉にして働き、多くの犠牲の出した挙句、巨人たちは共に滅んでいく!

 「流亡記」は、ある日突然万里の長城建設にかり出された男の物語です。
 巨大で合理的で非情なシステムのもと、自由な者などは存在しません。

 「誰ひとりなんのためかわからず、どこをめざしているのかも分からない」
 この「厖大な徒労」からまぬがれるために、彼はどんな決断をしたのか?

 全4編いずれも傑作だと思います。特に語り口がいいです。クセになります。
 開高健は遅筆で有名でしたが、作品に妥協をしなかったためなのでしょうか。

 余談ですが、山口瞳の「男性自身 傑作選」を購入しました。
 時間がある時に、のんびりと読みたいです。


山口瞳「男性自身」傑作選 中年篇 (新潮文庫)

山口瞳「男性自身」傑作選 中年篇 (新潮文庫)

  • 作者: 山口 瞳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(楽しかった食べ歩き)

 伊勢神宮に行ってきました。1泊してきました。
 荘厳で厳粛な雰囲気でした。さすが、神々の宿る土地です。

 一方で、おはらい町やおかげ横丁での食べ歩きも楽しかったです。
 シュークリーム、赤福、松坂牛串、松坂牛モツ汁、カキフライ、
 さわ餅、ハマグリ串、鶏の皮揚げ・・・ああ、本当によく食べた!

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江分利満氏の優雅な生活 [日本の近代文学]

 「江分利満氏の優雅な生活」 山口瞳 (新潮文庫)


 昭和の典型的なサラリーマンの、平凡な日常をそのまま描いた小説です。
 「婦人画報」に連載された出世作で、1963年に直木賞を受賞しました。

 私が読んだのは新潮文庫版ですが、現在はちくま文庫から出ています。
 このブログにおける( )内のページは、全て新潮文庫版のものです。


江分利満氏の優雅な生活 (ちくま文庫)

江分利満氏の優雅な生活 (ちくま文庫)

  • 作者: 山口 瞳
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 文庫



 江分利満(エブリマン)は、どこにでもいそうなサラリーマンです。
 東西電気の宣伝部員で、30代半ばの男。妻と息子の3人家族です。

 ストーリーらしきものは無く、平凡な日常生活が淡々とつづられています。
 書き方はエッセイ風で、書きたいことを書きたいように書いています。

 「まずパンツは、3枚百円の『気軽パンツ』である。なぜ気軽かというと、
 前後がないのであって、つまり、前とか後ろとかを気にしないで気軽に穿く
 ことができるからである。2枚の白い布を合せてゴムをつけただけであるか
 ら、前後を反対に穿くことはあり得ない。」(P43)

 時代を感じます。昭和30年代には、そういうパンツがあったのですね。
 想像するだけで面白いのですが、同時にどことなく悲しい感じがします。

 この、面白くてどこか悲しい味わいが、この小説全体を貫く特徴です。
 この味わいは、「戦後は終っていない」という所からきているようです。

 特に、江分利満の父親が、戦後の悲しみを体現しています。
 戦争成金の父は、空襲で全てを失い、戦後は莫大な借金を抱えました。

 生活費はツケにしてくれと、返すあてもないのに、息子にそう言う父親。
 「いろいろ有難う」の章は、笑えるやら、泣けるやら・・・

 「問題は七転八起のどこで終ったかだけではないのか。運と非運とだけで
 はないのか。」(P134)という、考えさせられるような言葉もあります。

 さて山口瞳といえば、10年ほど前に「礼儀作法入門」が話題になりました。
 「男性自身」もファンが多い。彼の文の魅力はエッセイでも発揮されました。


礼儀作法入門 (新潮文庫)

礼儀作法入門 (新潮文庫)

  • 作者: 山口 瞳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/03/29
  • メディア: 文庫



山口瞳「男性自身」傑作選 中年篇 (新潮文庫)

山口瞳「男性自身」傑作選 中年篇 (新潮文庫)

  • 作者: 山口 瞳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(寒い中、見回りに出動)

 連日不審者が出没しています。いずれも露出狂で、どうやら同一人物らしい。
 小学校の先生や地域の安全委員らが、児童の下校時間に見回りをしています。

 うちのママさんも、今週はこの寒さの中、2時間ほど見回りに出ています。
 1人のヘンタイのせいでこんなことになるとは。そう考えると腹立たしい!

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ごんぎつね [日本の近代文学]

 「ごんぎつね」 新美南吉 (小学館文庫)


 小学校4年生で学習する「ごんぎつね」など、5編の童話と十三の詩です。
 小学館文庫新撰クラシックスの第一作。字が大きくて、挿絵もあります。


ごんぎつね (小学館文庫―新撰クラシックス)

ごんぎつね (小学館文庫―新撰クラシックス)

  • 作者: 新美 南吉
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1999/11
  • メディア: 文庫



 「『ごんぎつね』といったら、この絵本だろう」という人は多いです。
 黒井健のイラストは心が温まります。「手ぶくろを買いに」もあります。


ごんぎつね (日本の童話名作選)

ごんぎつね (日本の童話名作選)

  • 作者: 新美 南吉
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1986/10/01
  • メディア: ハードカバー



 「ごんぎつね」については、今さら説明は不要でしょう。
 誰もが教室で泣きながら朗読したことを、思い出すのではないでしょうか。

 ごんが栗をいっぱい抱えて、けなげに歩く挿絵を、私は忘れられません。
 ごんが、かわいそうで、兵十(ひょうじゅう)もまた、かわいそうで・・・

 ごんと兵十は、二人とも天涯孤独の身、似た者どうしです。
 ひょっとしたら、お互いにかけがえのない親友になれたかもしれないのです。

 それなのに、この結末は!
 ようやく相手に思いが届いた時、この世を去っていかなければならないとは。
 ようやく相手を理解した時、その相手がこの世からいなくなってしまうとは。

 このような結末にしなければならなかったのは、なぜでしょうか。
 新美南吉は、この物語にどのようなメッセージを込めているのでしょうか。

 さて、驚いたことに「ごんぎつね」を書いた当時、南吉は18歳だったそうです。
 代用教員として小学生たちと触れ合う中で、この作品が生まれたと言います。

 南吉が喉頭結核でこの世を去ったのは、昭和18年、まだ29歳の時のことです。
 死の二日前に言った言葉が、とても痛ましい。

 「私は池に向かって小石を投げた。水の波紋が広がるのを見てから死にたかった
 のに、それを見届けずに死ぬのはとても残念だ。」(P193)

 死後、「ごんぎつね」は知らぬ人が無いほど、親しまれる作品となりました。
 これほど大きく広がった波紋を、南吉自身に見てほしかった。

 南吉は短い生涯で、身を削るように、いくつものすばらしい作品を書きました。
 「おじいさんとランプ」「うた時計」など、印象的な作品も収録されています。

 ただし、「ごんぎつね」と並ぶ傑作「手ぶくろを買いに」は、入っていません。
 こちらも、同じ小学館文庫の、新撰クラシックスシリーズから出ていました。


手袋を買いに (小学館文庫―新撰クラシックス)

手袋を買いに (小学館文庫―新撰クラシックス)

  • 作者: 新美 南吉
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫



 ハルキ文庫なら、「ごんぎつね」も「手ぶくろを買いに」も両方載っています。
 美智子皇后も愛した「でんでんむしのかなしみ」も収録されているようです。


新美南吉童話集 (ハルキ文庫)

新美南吉童話集 (ハルキ文庫)

  • 作者: 新美 南吉
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫



 ついでながら、「日本のアンデルセン」小川未明の童話集もオススメです。
 特に「赤いろうそくと人魚」は、なんともいえない魅力を放っています。


小川未明童話集 (新潮文庫)

小川未明童話集 (新潮文庫)

  • 作者: 小川 未明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1961/11/13
  • メディア: 文庫



 さいごに。(娘とカフェに)

 正月休みに、宿題の読書をさせるために、娘をカフェに連れて行きました。
 ココアを飲みながら、1時間ほどのうちに、50ページほど読んでいました。

 それからというもの、娘が「カフェで本を読もう」と、よく誘ってくるのです。
 おかげで上島珈琲プレシャスカードの残金が、あっというまに無くなりました。

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星と祭 [日本の近代文学]

 「星と祭」 井上靖 (角川文庫)


 琵琶湖で娘を亡くした男が、湖北の十一面観音を巡り、心の平安を得る物語です。
 この作品で、湖北の十一面観音たちは、全国的に知られるようになりました。

 以前は角川文庫から出ていましたが、現在は絶版。私は20年ほど前に読みました。
 解説は、角川文庫の発刊者である故・角川源義。ぜひこの本を復刊してほしい。


星と祭 (角川文庫 い 5-4)

星と祭 (角川文庫 い 5-4)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1975/03
  • メディア: 文庫



 貿易会社社長の架山は、七年前に先妻との間にできた娘を亡くしていました。
 娘のみはるは、琵琶湖でボート遊びをしていて、転覆事故に遭ったのです。

 みはるも、同乗していた年上の青年も、亡きがらは湖面に上がりませんでした。
 架山は悲嘆にくれ、青年の父親である大三浦に対して、憤りを感じていました。

 7年後、事故後初めて琵琶湖を訪れた架山は、偶然大三浦と再会しました。
 大三浦に連れられて、琵琶湖周辺の十一面観音を巡ってみると・・・

 この本を紹介してくれたのは、前の職場にいた、仏像仲間の同僚でした。
 彼は、奈良と京都ばかりを訪れてきた自分に、湖北の魅力を教えてくれました。

 この本を持って、渡岸寺や石道寺などを巡ったのは、20年近く前のことです。
 もちろん独身時代のことです。あのような贅沢はもう二度とできないでしょう。

 さて、小説の最初では、娘の死によって苦悩する架山の様子が描かれています。
 みはるの死を、古代の殯(もがり=仮葬)と見なすところは、さすが井上靖。

 みはるが生者でも死者でもないことに、意味を求めようとする・・・
 古代の人が挽歌を歌ったように、架山はみはると心の中で言葉を交わし・・・

 手元の角川文庫版202ぺージの「宝冠」の章から、琵琶湖古寺巡りが始まります。
 ここから、十一面観音巡礼がスタートします。仏像ファンにはたまらない!

 この小説の中で、主人公の架山が拝んだ十一面観音は、以下の13体だと思います。
 私が拝んだのは、その中で三体か四体です。いつか全て拝みたいです。

 渡岸寺、石道寺、福林寺、赤後寺、盛安寺、宗正寺、充満寺、医王寺、善隆寺、
 蓮長寺、円満寺、鶏足寺、長命寺。

 小説の最後で、架山と大三浦が、出会った十一面観音を一体一体現前させます。
 そして、長かった仮葬の期間は終わります。とても印象に残る場面でした。

 「つらなる星のように、十一面観音は湖を取り巻いて置かれ、一人の若者と
 一人の少女の霊は祀られたのである。」(P601)

渡岸寺十一面観音頭部左.jpg

 湖北を旅した時、「湖北 佛めぐり」という文庫サイズの写真集も携えました。
 序文を井上靖が書いています。モノクロですが、美しい仏像写真集です。


湖北 佛めぐり (京都書院アーツコレクション)

湖北 佛めぐり (京都書院アーツコレクション)

  • 作者: 駒澤 〓道
  • 出版社/メーカー: 京都書院
  • 発売日: 1999/11
  • メディア: 文庫



 さいごに。(スタバのチョコプリン)

 スタバに行って、新作のプリンを食べようとしましたが、売り切れていました。
 そのお店に聞いたところ、開店と同時に売り切れてしまうのだそうです。

 ちなみに、開店と同時に行ったとしても、買えないらしい。
 開店前から並んでいる人が、買い占めてしまうという。そこまでしなくても!

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