So-net無料ブログ作成
20世紀イギリス文学 ブログトップ
前の10件 | -

わたしを離さないで [20世紀イギリス文学]

 「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ作 土屋政雄訳 (ハヤカワepi文庫)


 介護人キャシーが、ヘールシャムという閉鎖的な施設について語った物語です。
 日系の作者が2017年度ノーベル文学賞に輝いたことによって、注目されました。

 ハヤカワepi文庫から出ています。訳は読みやすいです。
 前年2016年にドラマ化されたため、多くの書店で見かけるようになりました。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ・イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 文庫



 語り手のキャシーは、31歳の優秀な介護人で、「ヘールシャム」の出身です。
 彼女は、子供時代に過ごしたヘールシャムという施設について、語り始めます。

 そこはただの孤児院ではなく、なぜか展覧会用の作品作りばかりしていました。
 やがて彼らに、少しずつ残酷な事実が明かされていき・・・

 ヘールシャムの子供たちは、なぜ外の世界から隔離されているのか?
 ヘールシャムの子どもたちに、与えられた特殊な使命とは?

 ヘールシャムとは、いったい何のための施設なのか?
 「提供者」とは? 「介護人」とは? 「回復センター」とは?

 そして、血も凍るような終盤の展開!(特に第22章から)
 エミリー先生やマダムや、社会の人々の身勝手さに、吐き気を催しました。

 「それじゃチェスの駒と同じだと思っているでしょう。(中略)でも、考えてみ
 て。あなた方は、駒だとしても幸運な駒ですよ。」(P406)それはないだろう!

 私はこのタイトルを見て、この作品は切ない恋愛小説だと思いました。
 ところが、命(?)をテーマにした、非常に重たい物語でした。

 こういう社会的な作品を書いたからこそ、ノーベル賞になったのかもしれません。
 しかし、こういう内容だと知っていたら、私はこの作品を絶対に読まなかった。

 この作品を、感動作として紹介する人もいます。しかし、それは違うでしょう。
 確かに衝撃的な作品ですが、感動よりも後味の悪さがいつまでも残ります。

 さて、カズオ・イシグロの代表作は、1989年に出た「日の名残り」です。
 「わたしを離さないで」の口直しとして、近いうちに読みたい名作です。


日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2001/05/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ゴミ箱の中を見るな)

 娘がゴミ箱の中を覗いて、「パパ、ひとりでお菓子を食べたでしょ」と言う。
 お菓子の包み紙で分かるのだ。「ゴミ箱を覗くな!」と怒ったけど効果なし。

 そういえば、まだ4歳のときから、娘は同じようなことを言っていました。
 2011年のブログ → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-02-19

nice!(5)  コメント(6) 
共通テーマ:

木曜日だった男 [20世紀イギリス文学]

 「木曜日だった男」 チェスタトン作 南條竹則訳 (光文社古典新訳文庫)


 無政府主義者たちの集会に紛れ込んだ刑事が、荒唐無稽な体験をする物語です。
 探偵小説の形をとっていますが内容は幻想的で、哲学的な面もあります。

 光文社古典新訳文庫で出ています。訳は新しくて分かりやすいです。
 創元推理文庫の吉田健一訳も、根強いファンを持っています。 


木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫



木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

  • 作者: G.K.チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1960/01
  • メディア: 文庫



 詩人サイムは秘密厳守の約束で、無政府主義の隠れ家に連れて来られました。
 その集会で彼は、急逝した評議員「木曜日」の後任に選任されてしまいました。

 こうして秘密組織の一員となったサイムは、実は刑事でもあったのです。
 彼は、組織の陰謀を阻止し、議長「日曜日」の正体を暴こうとしますが・・・

 と書くと、探偵小説のようですが、実際ははちゃめちゃなドタバタ劇です。
 副題は「一つの悪夢」。まさに、悪い夢です。

 敵だと思っていたら味方だったり、味方だと思っていたら敵になっていたり。
 相手に追われている展開が、いつのまにか追っている展開になっていたり。

 物語はどんどん抽象的になり、曖昧になって、わけがわからなくなります。
 正直に言って、途中から物語の流れに付いていけなくなりました。

 組織のボス「日曜日」とは、結局何者だったのでしょうか?
 この大騒ぎには、いったいどんな意味があったのでしょうか?

 「この世界の秘密を教えてやろうか? それはね、僕らは世界の裏側しか知ら
 ないっていうことなんだ。我々はすべて物を後ろから見る。・・・」(P292)

 結局、警察も無政府主義者も、見方が違うだけで同じだ、と言いたかったのか。
 現代社会に対する風刺と皮肉が込められている、ということは分かるのですが。

 訳者の解説では、作品の解釈についてはほとんど書かれていませんでした。
 解釈のヒント、あるいは考える糸口のようなものを、示してほしかったです。

 さて、チェスタトンはむしろ、「ブラウン神父」シリーズで知られています。
 同じ南條訳で、ちくま文庫から「ブラウン神父」シリーズの新訳が出ています。


ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

  • 作者: G.K. チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/12
  • メディア: 文庫



ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫)

ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫)

  • 作者: G.K. チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫



 さいごに。(魔法を使えよ)

 娘は、「不審者に追いかけられる夢をよく見る」と言っていました。
 そのとき「これは夢だ」と分かっていながら、何もできないのだそうです。

 「夢だと分かっているなら、魔法を使って逃げろよ」と言ってやりました。
 でも、そんなことはできない、と言うのです。自分の夢なのに!

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

人間和声 [20世紀イギリス文学]

 「人間和声」 ブラックウッド作 南條竹則訳 (古典新訳文庫)


 元聖職者に秘書として雇われた男が、とてつもない実験に巻き込まれる物語です。
 言葉と音にかかわる神秘思想をテーマにしています。作者の長編の代表作です。

 2013年に光文社古典新訳文庫から出ました。
 ブラックウッド一流の文体が、とても分かりやすく訳してありました。
 

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: アルジャーノン ブラックウッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/05/14
  • メディア: 文庫



 スピンロビンは少年のころから、名前の持つ大きな力に気付いていました。
 彼が28歳で失職していたとき、謎めいた広告に出会い、人生が大きく転換しました。

 「勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語
 の多少の知識を必須とす。独身者。浮世離れした人間であること。」

 スピンロビンはこの広告に応募し、雇い主スケール氏の人里離れた屋敷に赴きます。
 そこには、家政婦のモール夫人と、スケール氏の美しい姪だけが住んでいました。

 さっそく、和声の練習と、ヘブライ語の学習が行われます。
 スピンロビンは、とても順調に課題をこなしていきますが・・・

 「私がこの完全な和音を必要とするのは、然るべき時が来たら、
 ある複雑で途方もない名前を発生するためーーすなわち、
 ある複雑で途方もない”力”を召喚するためなのだ!」

 スケール氏は、何をしようとしているのか? その目論見は実現するのか?
 このあと、スケール氏の驚くべき実験が明かされるのですが・・・

 文字が動き出す、音が形態をとる・・・そしてしまいには造物主が・・・
 言葉の神秘を扱った作品で、これほど壮大に描いたものは無いでしょう。

 特に最後のクライマックスはすごいです。そして、美しい。
 さすが、「幻視の人」ブラックウッド。ほかの人では描けない独特の世界です。

 訳者が言うには、ブラックウッドは心の目で超常現象を見てきたのだそうです。
 現実世界の向こう側の神秘の領域を見て、それを読者に伝えようとしたという。

 ブラックウッドは怪奇小説の短編が有名で、「秘書奇譚」も出ています。
 「秘書奇譚」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2016-07-01-4

 さいごに。(ネコ)

 先日娘に、「欲しいものはあるか」と聞いたら、「ネコ」と答えました。
 「どんなネコが欲しいか」と聞いたら、なにやら難しい名前を言いました。

 最近娘は、「ネコの図鑑」が愛読書で、いろんなネコのことを調べています。
 ちなみに、娘の欲しいネコは30万とか50万とかするらしい。絶対買わん!

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

秘書綺譚 [20世紀イギリス文学]

 「秘書綺譚 ブラックウッド幻想怪奇傑作集」 南條竹則訳 (光文社古典新訳文庫)


 幽霊屋敷、狼男、小鬼、吸血鬼、魔術等、様々な怪奇現象を扱った小説集です。
 作者ブラックウッドは、20世紀初頭に活躍した、英国の怪奇幻想小説家です。

 文庫本で読めるブラックウッドの作品集は、現在はこの1冊だけのようです。
 200編以上の短編から11編の秀作が収録されています。訳は分かりやすいです。


秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: アルジャーノン ブラックウッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/01/12
  • メディア: 文庫



 冒頭の「空家」は古典的な幽霊屋敷もので、とても分かりやすい怪談です。
 「幽霊屋敷の鍵を持ってるのよ」 主人公ショートハウスに叔母が言いました。

 その夜、100年前に殺人事件のあった屋敷に、2人は恐る恐る踏み込みました。
 そして、そこで体験したさまざまな恐ろしい体験・・・

 「壁に耳あり」も、ショートハウスが主人公の、印象的な幽霊屋敷ものです。 
 誰も住んでいないはずの隣の部屋で、聞こえてきた声は・・・

 「スミスの滅亡」も印象的でした。とても面白いアイディアです。
 荒野の中で、突如一面に鳴り響いた人々の叫び声は・・・

 「転移」はすごい作品です。私はこの作品で、頭をガツンとやられました。
 他人から生気を吸い取って生きるフランク伯父が、邪悪な地面によって・・・  

 「約束」は、小泉八雲の「菊花のちぎり」を思わせる作品で、印象に残りました。
 ところで、部屋に残るいびきの音を、どう解釈したらいいのでしょうか。

 「そういうことを、理屈っぽく考えてはいけない」と、読書仲間は言いました。
 しかし、私は幻想怪奇小説を読みなれていないため、戸惑う作品がありました。

 「スミス」は、いったいどんな魔術をやっていたのか?
 「秘書綺譚」に出てくる、屋敷の主人と従僕は結局何だったのか? 真空とは?

 「炎の舌」とは何か? いったい誰のどんな魔術によって、そうなったのか?
 「野火」の最後に、オハラを襲った悲劇は、いったい何だったのか?

 しかし、そういうことが謎のまま終わるからこそ、怖いのかもしれません。
 日中30度を超える日が続く中で、確かにゾクッとくる寒気を感じました。

 さて、200編以上残した短編の中から、11編だけとはあまりにも少ないです。
 創元社文庫・講談社文庫・角川文庫等から出ていた本も、できれば読みたいです。

 さいごに。(体脂肪22.5%の衝撃)

 人間ドックが7月末にあるので、職場の体脂肪計を借りて測定してみました。
 すると・・・なんと、22,5%という恐ろしい数値が! 判定は「軽肥満」。

 週に3回は体を動かしているので、18%ぐらいだと思っていたのですが。
 ブラックウッドも怖かったけど、自分の体脂肪率の方がもっと怖かったです。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

チャタレイ夫人の恋人 [20世紀イギリス文学]

 「チャタレイ夫人の恋人」 ロレンス作 伊藤整訳 (新潮文庫)


 炭坑王の妻チャタレイ夫人と森番メラーズとの、階級を超えた情熱的恋の物語です。
 ロレンス晩年の傑作であり、大胆な性描写が問題になって、発禁処分を受けました。

 私は12年ほど前に新潮文庫版で読みました。チャタレイ事件で有名な伊藤整訳です。
 現在は完訳版が出ています。文章はやや硬質ですが美しく、読みごたえがあります。


チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/11/22
  • メディア: 文庫



 ちくま文庫版や、光文社古典新訳版は、訳が比較的新しいため読みやすいです。
 ただし、どちらも1836円。ちょっとお高い。私の許容範囲は1200円なので。


チャタレー夫人の恋人 (ちくま文庫)

チャタレー夫人の恋人 (ちくま文庫)

  • 作者: D・H ロレンス
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/12/09
  • メディア: 文庫



チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫)

チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/11
  • メディア: 文庫



 炭坑経営者のクリフォード卿は、第一次大戦に従軍して、下半身不随になりました。
 妻のコンスタンスは、性的関係が無くなってから、虚無感を抱くようになりました。

 あるときコンスタンスは、同じ階級の男と関係して跡継ぎを作るよう言われました。
 そこで、劇作家のマイクリスと恋仲になりましたが、なかなか心が満たされません。

 そんな折、夫と森を散歩していて森番メラーズに会い、気にかかるようになり・・・
 コンスタンスは、しだいに森の美しさや生命力に魅了されるようになり・・・

 下半身不随の夫クリフォードは、炭坑経営に熱中するあまり、性を軽蔑しています。
 たくましい肉体を持ったメラーズは、自然の中で生活していて、性を礼賛します。

 このように二人の男の役割ははっきりしていて、作者の主張も明確に表れています。
 機械文明は人間性を殺してしまう、自然と一体になって生活しよう・・・

 さて、この作品の冒頭「現代は本質的に悲劇の時代である。」の一文は有名です。
 そして、全編が名文の宝庫。ページを繰るたびに、すばらしい文章に出会います。

 しかしながら、なんといっても印象的なのは、メラーズの会話文です。
 特に、コンスタンスを相手に言った言葉は、ハチャメチャでサイコーです。

 「おめえがここから糞をしたり小便をしたりするのがいいんだ。
 糞も小便も出来ないような女に用はない」(P410)

 「こいつが好きだ! だからたった十分間しか生きていないとしても、おめえ
 のけつを撫でて、おめえのけつを知れば、一生生きたも同然だ! 産業社会だ
 ろうがなんだろうが同じことだ。ここにおれの人生があるんだ」(P411)

 こんなバカげた言葉を連発するメラーズを、笑いながら愛さずにはいられません。
 こんなバカげた言葉を発しながらも、二人の行為には神々しさがあります。

 コンスタンスはメラーズに会い、自然の美しさと生命の力強さを知りました。
 コンスタンスにとってのメラーズは、まるで宗教的達人のようです。

 ところで、ロレンスの代表作は、「息子と恋人」です。
 待ちに待ったこの作品が、2月にちくま文庫から出ました。価値ある新訳です。

 ところが、私は買うのを躊躇しています。1944円という値段は想定外でした。
 この値段だとなかなか買えないし、他人に薦めることもできません。


息子と恋人 (ちくま文庫)

息子と恋人 (ちくま文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(パノラマパーク)

 GWに行った伊豆の国パノラマパークは、楽しかったです。
 雄大な景色を見ながら足湯につかったり、おだんごを食べたりしました。

 ただし、富士山が霞んでいました。次は、富士山が見える時に行きたい。
 下の写真は、見晴茶屋から。本当は右の方に富士山が見えるはずです。

DSCF2135-2.jpg

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

大転落 [20世紀イギリス文学]

 「大転落」 イーヴリン・ウォー作 富山太佳夫訳 (岩波文庫)


 不運によって退学処分になった青年の、転落していく多難な人生の物語です。
 ウォーのデビュー作で、20世紀イギリスを代表するユーモア小説です。

 岩波文庫から出ていましたが、現在は品切れ。アマゾンで1円です。
 初版は1991年。訳は分かりやすかったです。 


大転落 (岩波文庫)

大転落 (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン・ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/06/17
  • メディア: 文庫



 主人公のポール・ペニーフェザーは、極めてまじめな大学生でした。
 しかし、他の生徒の乱痴気騒ぎに巻き込まれて、退学処分になりました。

 最後に門番が言うことには「あなたも先生におなりになるんでしょうな。
 素行不良でここを退学になる学生さんは、大半がどうですから」(P15)

 聖職志望から教員へ、人生の「大転落」!
 「あなたにうってつけ」と勧められて、赴任したその学校は・・・

 第一章で1回目の転落があり、学校を舞台にのんびり進みます。
 第二章で2回目の転落があり、急に冒険小説っぽくなって激しく展開します。

 人生がどんなに激しく吹き荒れても、淡々としているポールは退屈な男です。
 むしろこの小説の面白さは主人公ポールではなく、その取り巻きにあります。

 義足のグライムズ 、かつらのプレンダーガスト、詐欺師のフィルブリック。
 それから、悪女マーゴット、さすらいの建築教授ジレーヌス。

 みんなひとクセもふたクセもあり、良い味を出しています。
 彼らに振り回されながらも、ポールが人生を学ぶところが、物語の醍醐味です。

 さて、ウォーの作品には、光文社古典新訳文庫の「ご遺体」もあります。
 岩波文庫の「愛されたもの」も同じ小説らしい。買わなくて良かった。


ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: イーヴリン ウォー
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/03/12
  • メディア: 文庫



愛されたもの (岩波文庫)

愛されたもの (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン・ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/03/16
  • メディア: 文庫



 詩人のデニスは、映画会社との契約が更新されず、ペット葬儀屋で働いています。
 ところがある日、部屋に帰ると、寄宿先の主人フランクが首をつっていたのです。

 デニスは葬儀屋を訪れ、そこで出会ったコスメ係りのエイメに一目ぼれし・・・
 と、ここまでは理解できます。このあと、普通なら次のように展開するはずです。

 二人は結婚し、協力しながら仲良く暮らし、ささやかな幸せをつかむ。
 その仲を取り持ったのは、友人フランクの「ご遺体」であった、と。

 しかし、私のありふれた予想を裏切り、物語はあらぬ方向へ迷走していきます。
 なんじゃこの展開は? ウォーが日本で受け入れられない理由が分かります。

 イーヴリン・ウォーの代表作は、青春回想ものの「回想のブライズヘッド」。
 岩波文庫から上下二分冊で出ています。絶版になる前に購入だけはしておこう。


回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(転勤は無かったが)

 転勤は無かったのですが、仕事内容が少しだけ変わりました。
 2年間運営から外れてのんびりしていましたが、再び忙しくなります。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

ヒューマンファクター [20世紀イギリス文学]

 「ヒューマン・ファクター」
 グレアム・グリーン作 加賀山卓郎訳 (ハヤカワepi文庫)


 平穏な家庭生活を送りながら、二重スパイをする男の、孤独な戦いを描いた物語です。
 「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」と並び、スパイ小説の金字塔です。

 ハヤカワepi文庫から2006年に新訳版が出ています。
 訳は分かりやすく、活字も読みやすいです。


ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: グレアム グリーン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/10/12
  • メディア: 文庫



 イギリス情報部の暗号係をしているカッスルは、ある日抜き打ち調査をされました。
 ソ連への情報漏洩を知った上層部が、密かに二重スパイを探し始めたのです。

 古参のカッスルは、嫌疑を受けずにすみましたが、同僚のデイヴィスは疑われ・・・
 いったい情報はどこから漏れていたのか・・・

 この作品は、ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」同様、
 1963年にイギリスに衝撃を与えた、キム・フィルビー事件をもとにしています。

 キム・フィルビーとは、イギリス情報部の上層にいた二重スパイで、
 ソ連に最高機密を流し続け、のちにモスクワに亡命した人物です。

 作者グリーンは、一時期フィルビーの部下として、情報部で働いていました。
 そのためか、この作品は二重スパイの立場で、孤独と悲哀を描いています。

 祖国とは何か? 忠誠とは何か?
 祖国のために生きるべきか? 愛する妻と息子のために生きるべきか?

 「わたしたちにはわたしたちだけの国がある。あなたとわたしとサムの国。
 あなたはその国は裏切ってないわ。」(P341)

 カッスルと長官デイントリーの交流の場面が、とても印象に残りました。
 長官に親しみを感じながらも裏切る部下。裏切りを知らず部下を信頼する長官。

 どちらも、とても孤独で悲しい。
 最後にカッスルを訪問するデイントリーは実に痛々しい。私はこの場面で泣けた。

 さて、「ティンカー、テイラー」は、スパイを追う側の視点で書かれていました。
 「ヒューマンファクター」は、追い込まれるスパイの側の視点で書かれています。

 そういう意味で、この二つの作品は、ちょうど対極にあります。
 しかし、どちらも情報部という組織に属する悲しみを描いている点で、同じです。

 そして、私がこの二つの作品を知ったきっかけも、同じ池澤氏の著書です。
 二冊とも、お正月休み用に買ったのに、早々と読んでしまいました。あーあ。

 「池澤夏樹の世界文学リミックス」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
 この本は、かなりネタばれがありましたが、それでも作品を充分に楽しめました。

 グレアム・グリーンにはほかにも、魅力的な作品がたくさんあります。
 ハヤカワepi文庫の「グレアム・グリーン・セレクション」で、多くを読めます。

 「負けた者がみな貰う」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-04-01
 「事件の核心」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-01-10
 「第三の男」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-11-14
 「情事の終り」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19
 「情事の終り2」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-10-20

 さいごに。(プリンターが壊れたが)

 年賀状印刷をしていたら、突然プリンターがインクを検知しなくなって、慌てました。
 お店では、純正でないインクを使ったのがいけないと、言われました。

 それなら純正インクをもっと安くしてほしい。
 ダメもとで、純正でない新しいインクを取り付けたら、直りました。よかった。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

思い出のマーニー [20世紀イギリス文学]

 「思い出のマーニー」 ジョーン・ロビンソン作 高見浩訳 (新潮文庫)


 心を閉ざすアンナが、湿地帯の屋敷のマーニーと出会い、成長する物語です。
 1967年の作品ですが、2014年にジブリによって映画化され話題になりました。

 新潮文庫から高見訳が、角川文庫から越前訳が出ています。どちらも新訳。
 私は新潮文庫で読みました。ヘミングウェイの高見訳が分かり易かったので。


思い出のマーニー (新潮文庫)

思い出のマーニー (新潮文庫)

  • 作者: ジョーン・G. ロビンソン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/06/27
  • メディア: 文庫



新訳 思い出のマーニー (角川文庫)

新訳 思い出のマーニー (角川文庫)

  • 作者: ジョーン・G・ロビンソン
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: 文庫



 アンナは喘息の発作が出たため、静養のために海辺の田舎町へ行きました。
 しかしアンナにとって問題は、喘息よりも心を閉ざしてしまっていることです。

 パーティーが楽しいのは内側にいる人間だけ。魔法の輪の内側にいる人間だけ。
 その点アンナは外側の人間だから、そういう楽しみとは無関係だと感じています。

 ところが、海辺の湿地帯で出会ったマーニーとは、すぐに親しくなり・・・
 アンナは初めて得た親友マーニーと、交流を重ねていくが・・・

 マーニーは何者なのか? 本当に実在する人間なのか?
 どうしてマーニーは消えてしまうのか? アンナに何が起こっていたのか?

 私はTV放映されたジブリの映画を見て、興味が湧いて本を手に取りました。
 映画はすばらしかったけど、原作はさらに感動的でした。

 原作を読んで理解できたことも多いです。たとえばマーニーについて。
 映画を見たあと、娘と一緒に考えましたが、よく分かりませんでした。

 しかし、原作では終盤で、かなりはっきりとその謎解きをしています。
 また、タイトルの「思い出の」という語句が、答えを暗示しています。

 ところで、これと似た物語に、ピアスの「トムは真夜中の庭で」があります。
 この作品も児童文学の傑作。オススメです。
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-11-21

 さいごに。(アクア・トト)

 先日の岐阜旅行で立ち寄った「アクア・トト・ぎふ」は充実していました。
 淡水魚の水族館で、世界中の珍しい淡水魚が、予想以上にたくさんいました。

DSCF1789-2.jpg

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

女ごころ [20世紀イギリス文学]

 「女ごころ」 モーム作 尾崎寔(まこと)訳 (ちくま文庫)


 美しい30歳の未亡人と3人の男たちが、フィレンツェで繰り広げる恋の物語です。
 モームの晩年の作品で、「真夜中の銃声」というタイトルで映画化されました。 

 ちくま文庫から2014年に出ています。
 訳は新しいので分かりやすくて、活字は読みやすいです。


女ごころ (ちくま文庫)

女ごころ (ちくま文庫)

  • 作者: W・サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫



 古都フィレンツェの町並みを見下ろす山荘に、美しい未亡人が住んでいました。
 彼女はメアリー。30歳。1年前に夫を事故で亡くしたばかりです。

 その日、メアリーを訪ねてプロポーズした、非の打ち所の無い紳士がいました。
 彼はエドガー。54歳。メアリーとは昔からの知り合いで 、政府の高官です。

 翌日、メアリーは公爵夫人の夕食会で、破廉恥で放蕩者の男と一緒になりました。
 彼はロウリー。30歳。いきなり、メアリーにプロポーズをする厚かましさです。

 この3人に、貧しいヴァイオリン弾きが加わり、物語は意外な展開に・・・
 最後にメアリーが選ぶのは・・・

 面白くて、あっという間に読み終わりました。さすがモームです。
 タイトルどおり、状況しだいで移り変わる女心が、繊細な筆致で描かれています。

 しかし、私が最も共感したのは、自堕落なプレイボーイのロウリー。
 彼も彼なりの信念を持って生きています。(P53)

 「知るかぎり、僕が自由にできる人生はこの一回だけ。とっても気に入っているよ。
 折角与えられた機会を活かさなかったら、それほどバカなことはないじゃないか。」

 さて、モームのフィレンツェものの作品は、ほかに「昔も今も」があります。
 チェーザレが登場する歴史小説で、私のお気に入りの作品です。

 「昔も今も」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-07-12

昔も今も (ちくま文庫)

昔も今も (ちくま文庫)

  • 作者: サマセット・モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫



 「女ごころ」というタイトルを見たとき、最初はエッセイかと思いました。
 「男ごころ」という、丸谷才一のナイスなエッセイがあるので。中古で1円です。


男ごころ (新潮文庫)

男ごころ (新潮文庫)

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1992/08
  • メディア: 文庫



 さいごに。(学級委員)

 娘が、後期の学級委員に選ばれたのだそうです。
 たいした仕事は無いといいますが、うちの娘に務まるのか心配です。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

ジゴロとジゴレット [20世紀イギリス文学]

 「ジゴロとジゴレット」 モーム作 金原瑞人訳 (新潮文庫)


 モームの真骨頂である短編小説のうち、ヨーロッパを舞台にした8編です。
 いずれも機知とユーモアに彩られていて、どこか悲哀を感じる作品です。

 2015年9月に新潮文庫から出たばかりの新訳で、とても読みやすいです。
 「月と六ペンス」も新訳が出たばかり。「雨・赤毛」の新訳も期待したい。


ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

  • 作者: サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: 文庫



 この本に入っている8作は、どの作品もピリッとした味付けがモームらしい。
 その中でも特に次の3作が、私的にはオススメでした。

 まず、「征服されざる者」は、最も衝撃的な作品です。
 第2次大戦中、ドイツ兵のハンスは、フランス娘アネットに乱暴を働きました。

 アネットの妊娠を知り、ハンスは彼女への愛情をつのらせていき・・・
 しかし、アネットの態度は変わらず、彼女が最後にとった行動は・・・

 次に、「マウントドラーゴ卿」は、最も奇怪で、印象に残った作品です。
 精神科のオードリン医師、外務大臣マウントドラーゴ卿が受診しました。

 マウントドラーゴ卿が、毎晩見る夢の中に出てくる男は・・・
 唯一の治療法を拒否したマウントドラーゴ卿は、とうとう・・・

 そして、「ジェイン」は、最も面白くて、イチオシの作品です。
 初老の女ジェインが、突然20歳以上も年下の男と結婚しました。

 義理の姉は、財産目当ての結婚かと疑っていましたが・・・
 デザイナーの夫によって、魅力を引き出されたジェインは・・・

 ほかにも、危険な芸当でお金を稼ぐ夫婦を描いた「ジゴロとジゴレット」
 や、結核患者の人間模様を描いた「サナトリウム」などが良かったです。

 ところで、この本や、「月と六ペンス」新版のカバーはカッコイイです。


月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)

  • 作者: サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 文庫



 しかし私は、旧版のカバーの方が、もっと上品でカッコよかったと思います。
 昔、初めてこのカバーを見た時は感動して、「全部読みたい」と思いました。

CA3K0010.JPG

 モームの「女ごころ」の新訳が、昨年2014年にちくま文庫から出ました。
 そのうち絶版になってしまうと思うので(?)、その前に読んでおきたいです。


女ごころ (ちくま文庫)

女ごころ (ちくま文庫)

  • 作者: W・サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫



 さいごに。(町内運動会)

 昨日は町内対抗の運動会でした。今年もリレーのアンカーをやりました。
 昨年のようにはいかず、4位でもらって、4位のままゴール。びりでした。

 小学3年生のうちの娘は、4種目も出場して、どれも楽しんでいました。
 子供数が少ないうちの町内は、子供総動員という感じです。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の10件 | - 20世紀イギリス文学 ブログトップ