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木曜日だった男 [20世紀イギリス文学]

 「木曜日だった男」 チェスタトン作 南條竹則訳 (光文社古典新訳文庫)


 無政府主義者たちの集会に紛れ込んだ刑事が、荒唐無稽な体験をする物語です。
 探偵小説の形をとっていますが内容は幻想的で、哲学的な面もあります。

 光文社古典新訳文庫で出ています。訳は新しくて分かりやすいです。
 創元推理文庫の吉田健一訳も、根強いファンを持っています。 


木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫



木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

  • 作者: G.K.チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1960/01
  • メディア: 文庫



 詩人サイムは秘密厳守の約束で、無政府主義の隠れ家に連れて来られました。
 その集会で彼は、急逝した評議員「木曜日」の後任に選任されてしまいました。

 こうして秘密組織の一員となったサイムは、実は刑事でもあったのです。
 彼は、組織の陰謀を阻止し、議長「日曜日」の正体を暴こうとしますが・・・

 と書くと、探偵小説のようですが、実際ははちゃめちゃなドタバタ劇です。
 副題は「一つの悪夢」。まさに、悪い夢です。

 敵だと思っていたら味方だったり、味方だと思っていたら敵になっていたり。
 相手に追われている展開が、いつのまにか追っている展開になっていたり。

 物語はどんどん抽象的になり、曖昧になって、わけがわからなくなります。
 正直に言って、途中から物語の流れに付いていけなくなりました。

 組織のボス「日曜日」とは、結局何者だったのでしょうか?
 この大騒ぎには、いったいどんな意味があったのでしょうか?

 「この世界の秘密を教えてやろうか? それはね、僕らは世界の裏側しか知ら
 ないっていうことなんだ。我々はすべて物を後ろから見る。・・・」(P292)

 結局、警察も無政府主義者も、見方が違うだけで同じだ、と言いたかったのか。
 現代社会に対する風刺と皮肉が込められている、ということは分かるのですが。

 訳者の解説では、作品の解釈についてはほとんど書かれていませんでした。
 解釈のヒント、あるいは考える糸口のようなものを、示してほしかったです。

 さて、チェスタトンはむしろ、「ブラウン神父」シリーズで知られています。
 同じ南條訳で、ちくま文庫から「ブラウン神父」シリーズの新訳が出ています。


ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

  • 作者: G.K. チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/12
  • メディア: 文庫



ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫)

ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫)

  • 作者: G.K. チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫



 さいごに。(魔法を使えよ)

 娘は、「不審者に追いかけられる夢をよく見る」と言っていました。
 そのとき「これは夢だ」と分かっていながら、何もできないのだそうです。

 「夢だと分かっているなら、魔法を使って逃げろよ」と言ってやりました。
 でも、そんなことはできない、と言うのです。自分の夢なのに!

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人間和声 [20世紀イギリス文学]

 「人間和声」 ブラックウッド作 南條竹則訳 (古典新訳文庫)


 元聖職者に秘書として雇われた男が、とてつもない実験に巻き込まれる物語です。
 言葉と音にかかわる神秘思想をテーマにしています。作者の長編の代表作です。

 2013年に光文社古典新訳文庫から出ました。
 ブラックウッド一流の文体が、とても分かりやすく訳してありました。
 

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: アルジャーノン ブラックウッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/05/14
  • メディア: 文庫



 スピンロビンは少年のころから、名前の持つ大きな力に気付いていました。
 彼が28歳で失職していたとき、謎めいた広告に出会い、人生が大きく転換しました。

 「勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語
 の多少の知識を必須とす。独身者。浮世離れした人間であること。」

 スピンロビンはこの広告に応募し、雇い主スケール氏の人里離れた屋敷に赴きます。
 そこには、家政婦のモール夫人と、スケール氏の美しい姪だけが住んでいました。

 さっそく、和声の練習と、ヘブライ語の学習が行われます。
 スピンロビンは、とても順調に課題をこなしていきますが・・・

 「私がこの完全な和音を必要とするのは、然るべき時が来たら、
 ある複雑で途方もない名前を発生するためーーすなわち、
 ある複雑で途方もない”力”を召喚するためなのだ!」

 スケール氏は、何をしようとしているのか? その目論見は実現するのか?
 このあと、スケール氏の驚くべき実験が明かされるのですが・・・

 文字が動き出す、音が形態をとる・・・そしてしまいには造物主が・・・
 言葉の神秘を扱った作品で、これほど壮大に描いたものは無いでしょう。

 特に最後のクライマックスはすごいです。そして、美しい。
 さすが、「幻視の人」ブラックウッド。ほかの人では描けない独特の世界です。

 訳者が言うには、ブラックウッドは心の目で超常現象を見てきたのだそうです。
 現実世界の向こう側の神秘の領域を見て、それを読者に伝えようとしたという。

 ブラックウッドは怪奇小説の短編が有名で、「秘書奇譚」も出ています。
 「秘書奇譚」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2016-07-01-4

 さいごに。(ネコ)

 先日娘に、「欲しいものはあるか」と聞いたら、「ネコ」と答えました。
 「どんなネコが欲しいか」と聞いたら、なにやら難しい名前を言いました。

 最近娘は、「ネコの図鑑」が愛読書で、いろんなネコのことを調べています。
 ちなみに、娘の欲しいネコは30万とか50万とかするらしい。絶対買わん!

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秘書綺譚 [20世紀イギリス文学]

 「秘書綺譚 ブラックウッド幻想怪奇傑作集」 南條竹則訳 (光文社古典新訳文庫)


 幽霊屋敷、狼男、小鬼、吸血鬼、魔術等、様々な怪奇現象を扱った小説集です。
 作者ブラックウッドは、20世紀初頭に活躍した、英国の怪奇幻想小説家です。

 文庫本で読めるブラックウッドの作品集は、現在はこの1冊だけのようです。
 200編以上の短編から11編の秀作が収録されています。訳は分かりやすいです。


秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: アルジャーノン ブラックウッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/01/12
  • メディア: 文庫



 冒頭の「空家」は古典的な幽霊屋敷もので、とても分かりやすい怪談です。
 「幽霊屋敷の鍵を持ってるのよ」 主人公ショートハウスに叔母が言いました。

 その夜、100年前に殺人事件のあった屋敷に、2人は恐る恐る踏み込みました。
 そして、そこで体験したさまざまな恐ろしい体験・・・

 「壁に耳あり」も、ショートハウスが主人公の、印象的な幽霊屋敷ものです。 
 誰も住んでいないはずの隣の部屋で、聞こえてきた声は・・・

 「スミスの滅亡」も印象的でした。とても面白いアイディアです。
 荒野の中で、突如一面に鳴り響いた人々の叫び声は・・・

 「転移」はすごい作品です。私はこの作品で、頭をガツンとやられました。
 他人から生気を吸い取って生きるフランク伯父が、邪悪な地面によって・・・  

 「約束」は、小泉八雲の「菊花のちぎり」を思わせる作品で、印象に残りました。
 ところで、部屋に残るいびきの音を、どう解釈したらいいのでしょうか。

 「そういうことを、理屈っぽく考えてはいけない」と、読書仲間は言いました。
 しかし、私は幻想怪奇小説を読みなれていないため、戸惑う作品がありました。

 「スミス」は、いったいどんな魔術をやっていたのか?
 「秘書綺譚」に出てくる、屋敷の主人と従僕は結局何だったのか? 真空とは?

 「炎の舌」とは何か? いったい誰のどんな魔術によって、そうなったのか?
 「野火」の最後に、オハラを襲った悲劇は、いったい何だったのか?

 しかし、そういうことが謎のまま終わるからこそ、怖いのかもしれません。
 日中30度を超える日が続く中で、確かにゾクッとくる寒気を感じました。

 さて、200編以上残した短編の中から、11編だけとはあまりにも少ないです。
 創元社文庫・講談社文庫・角川文庫等から出ていた本も、できれば読みたいです。

 さいごに。(体脂肪22.5%の衝撃)

 人間ドックが7月末にあるので、職場の体脂肪計を借りて測定してみました。
 すると・・・なんと、22,5%という恐ろしい数値が! 判定は「軽肥満」。

 週に3回は体を動かしているので、18%ぐらいだと思っていたのですが。
 ブラックウッドも怖かったけど、自分の体脂肪率の方がもっと怖かったです。

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チャタレイ夫人の恋人 [20世紀イギリス文学]

 「チャタレイ夫人の恋人」 ロレンス作 伊藤整訳 (新潮文庫)


 炭坑王の妻チャタレイ夫人と森番メラーズとの、階級を超えた情熱的恋の物語です。
 ロレンス晩年の傑作であり、大胆な性描写が問題になって、発禁処分を受けました。

 私は12年ほど前に新潮文庫版で読みました。チャタレイ事件で有名な伊藤整訳です。
 現在は完訳版が出ています。文章はやや硬質ですが美しく、読みごたえがあります。


チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/11/22
  • メディア: 文庫



 ちくま文庫版や、光文社古典新訳版は、訳が比較的新しいため読みやすいです。
 ただし、どちらも1836円。ちょっとお高い。私の許容範囲は1200円なので。


チャタレー夫人の恋人 (ちくま文庫)

チャタレー夫人の恋人 (ちくま文庫)

  • 作者: D・H ロレンス
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/12/09
  • メディア: 文庫



チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫)

チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/11
  • メディア: 文庫



 炭坑経営者のクリフォード卿は、第一次大戦に従軍して、下半身不随になりました。
 妻のコンスタンスは、性的関係が無くなってから、虚無感を抱くようになりました。

 あるときコンスタンスは、同じ階級の男と関係して跡継ぎを作るよう言われました。
 そこで、劇作家のマイクリスと恋仲になりましたが、なかなか心が満たされません。

 そんな折、夫と森を散歩していて森番メラーズに会い、気にかかるようになり・・・
 コンスタンスは、しだいに森の美しさや生命力に魅了されるようになり・・・

 下半身不随の夫クリフォードは、炭坑経営に熱中するあまり、性を軽蔑しています。
 たくましい肉体を持ったメラーズは、自然の中で生活していて、性を礼賛します。

 このように二人の男の役割ははっきりしていて、作者の主張も明確に表れています。
 機械文明は人間性を殺してしまう、自然と一体になって生活しよう・・・

 さて、この作品の冒頭「現代は本質的に悲劇の時代である。」の一文は有名です。
 そして、全編が名文の宝庫。ページを繰るたびに、すばらしい文章に出会います。

 しかしながら、なんといっても印象的なのは、メラーズの会話文です。
 特に、コンスタンスを相手に言った言葉は、ハチャメチャでサイコーです。

 「おめえがここから糞をしたり小便をしたりするのがいいんだ。
 糞も小便も出来ないような女に用はない」(P410)

 「こいつが好きだ! だからたった十分間しか生きていないとしても、おめえ
 のけつを撫でて、おめえのけつを知れば、一生生きたも同然だ! 産業社会だ
 ろうがなんだろうが同じことだ。ここにおれの人生があるんだ」(P411)

 こんなバカげた言葉を連発するメラーズを、笑いながら愛さずにはいられません。
 こんなバカげた言葉を発しながらも、二人の行為には神々しさがあります。

 コンスタンスはメラーズに会い、自然の美しさと生命の力強さを知りました。
 コンスタンスにとってのメラーズは、まるで宗教的達人のようです。

 ところで、ロレンスの代表作は、「息子と恋人」です。
 待ちに待ったこの作品が、2月にちくま文庫から出ました。価値ある新訳です。

 ところが、私は買うのを躊躇しています。1944円という値段は想定外でした。
 この値段だとなかなか買えないし、他人に薦めることもできません。


息子と恋人 (ちくま文庫)

息子と恋人 (ちくま文庫)

  • 作者: D.H. ロレンス
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(パノラマパーク)

 GWに行った伊豆の国パノラマパークは、楽しかったです。
 雄大な景色を見ながら足湯につかったり、おだんごを食べたりしました。

 ただし、富士山が霞んでいました。次は、富士山が見える時に行きたい。
 下の写真は、見晴茶屋から。本当は右の方に富士山が見えるはずです。

DSCF2135-2.jpg

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大転落 [20世紀イギリス文学]

 「大転落」 イーヴリン・ウォー作 富山太佳夫訳 (岩波文庫)


 不運によって退学処分になった青年の、転落していく多難な人生の物語です。
 ウォーのデビュー作で、20世紀イギリスを代表するユーモア小説です。

 岩波文庫から出ていましたが、現在は品切れ。アマゾンで1円です。
 初版は1991年。訳は分かりやすかったです。 


大転落 (岩波文庫)

大転落 (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン・ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/06/17
  • メディア: 文庫



 主人公のポール・ペニーフェザーは、極めてまじめな大学生でした。
 しかし、他の生徒の乱痴気騒ぎに巻き込まれて、退学処分になりました。

 最後に門番が言うことには「あなたも先生におなりになるんでしょうな。
 素行不良でここを退学になる学生さんは、大半がどうですから」(P15)

 聖職志望から教員へ、人生の「大転落」!
 「あなたにうってつけ」と勧められて、赴任したその学校は・・・

 第一章で1回目の転落があり、学校を舞台にのんびり進みます。
 第二章で2回目の転落があり、急に冒険小説っぽくなって激しく展開します。

 人生がどんなに激しく吹き荒れても、淡々としているポールは退屈な男です。
 むしろこの小説の面白さは主人公ポールではなく、その取り巻きにあります。

 義足のグライムズ 、かつらのプレンダーガスト、詐欺師のフィルブリック。
 それから、悪女マーゴット、さすらいの建築教授ジレーヌス。

 みんなひとクセもふたクセもあり、良い味を出しています。
 彼らに振り回されながらも、ポールが人生を学ぶところが、物語の醍醐味です。

 さて、ウォーの作品には、光文社古典新訳文庫の「ご遺体」もあります。
 岩波文庫の「愛されたもの」も同じ小説らしい。買わなくて良かった。


ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: イーヴリン ウォー
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/03/12
  • メディア: 文庫



愛されたもの (岩波文庫)

愛されたもの (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン・ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/03/16
  • メディア: 文庫



 詩人のデニスは、映画会社との契約が更新されず、ペット葬儀屋で働いています。
 ところがある日、部屋に帰ると、寄宿先の主人フランクが首をつっていたのです。

 デニスは葬儀屋を訪れ、そこで出会ったコスメ係りのエイメに一目ぼれし・・・
 と、ここまでは理解できます。このあと、普通なら次のように展開するはずです。

 二人は結婚し、協力しながら仲良く暮らし、ささやかな幸せをつかむ。
 その仲を取り持ったのは、友人フランクの「ご遺体」であった、と。

 しかし、私のありふれた予想を裏切り、物語はあらぬ方向へ迷走していきます。
 なんじゃこの展開は? ウォーが日本で受け入れられない理由が分かります。

 イーヴリン・ウォーの代表作は、青春回想ものの「回想のブライズヘッド」。
 岩波文庫から上下二分冊で出ています。絶版になる前に購入だけはしておこう。


回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: イーヴリン ウォー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(転勤は無かったが)

 転勤は無かったのですが、仕事内容が少しだけ変わりました。
 2年間運営から外れてのんびりしていましたが、再び忙しくなります。

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ヒューマンファクター [20世紀イギリス文学]

 「ヒューマン・ファクター」
 グレアム・グリーン作 加賀山卓郎訳 (ハヤカワepi文庫)


 平穏な家庭生活を送りながら、二重スパイをする男の、孤独な戦いを描いた物語です。
 「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」と並び、スパイ小説の金字塔です。

 ハヤカワepi文庫から2006年に新訳版が出ています。
 訳は分かりやすく、活字も読みやすいです。


ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: グレアム グリーン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/10/12
  • メディア: 文庫



 イギリス情報部の暗号係をしているカッスルは、ある日抜き打ち調査をされました。
 ソ連への情報漏洩を知った上層部が、密かに二重スパイを探し始めたのです。

 古参のカッスルは、嫌疑を受けずにすみましたが、同僚のデイヴィスは疑われ・・・
 いったい情報はどこから漏れていたのか・・・

 この作品は、ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」同様、
 1963年にイギリスに衝撃を与えた、キム・フィルビー事件をもとにしています。

 キム・フィルビーとは、イギリス情報部の上層にいた二重スパイで、
 ソ連に最高機密を流し続け、のちにモスクワに亡命した人物です。

 作者グリーンは、一時期フィルビーの部下として、情報部で働いていました。
 そのためか、この作品は二重スパイの立場で、孤独と悲哀を描いています。

 祖国とは何か? 忠誠とは何か?
 祖国のために生きるべきか? 愛する妻と息子のために生きるべきか?

 「わたしたちにはわたしたちだけの国がある。あなたとわたしとサムの国。
 あなたはその国は裏切ってないわ。」(P341)

 カッスルと長官デイントリーの交流の場面が、とても印象に残りました。
 長官に親しみを感じながらも裏切る部下。裏切りを知らず部下を信頼する長官。

 どちらも、とても孤独で悲しい。
 最後にカッスルを訪問するデイントリーは実に痛々しい。私はこの場面で泣けた。

 さて、「ティンカー、テイラー」は、スパイを追う側の視点で書かれていました。
 「ヒューマンファクター」は、追い込まれるスパイの側の視点で書かれています。

 そういう意味で、この二つの作品は、ちょうど対極にあります。
 しかし、どちらも情報部という組織に属する悲しみを描いている点で、同じです。

 そして、私がこの二つの作品を知ったきっかけも、同じ池澤氏の著書です。
 二冊とも、お正月休み用に買ったのに、早々と読んでしまいました。あーあ。

 「池澤夏樹の世界文学リミックス」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
 この本は、かなりネタばれがありましたが、それでも作品を充分に楽しめました。

 グレアム・グリーンにはほかにも、魅力的な作品がたくさんあります。
 ハヤカワepi文庫の「グレアム・グリーン・セレクション」で、多くを読めます。

 「負けた者がみな貰う」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-04-01
 「事件の核心」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-01-10
 「第三の男」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-11-14
 「情事の終り」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19
 「情事の終り2」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-10-20

 さいごに。(プリンターが壊れたが)

 年賀状印刷をしていたら、突然プリンターがインクを検知しなくなって、慌てました。
 お店では、純正でないインクを使ったのがいけないと、言われました。

 それなら純正インクをもっと安くしてほしい。
 ダメもとで、純正でない新しいインクを取り付けたら、直りました。よかった。

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思い出のマーニー [20世紀イギリス文学]

 「思い出のマーニー」 ジョーン・ロビンソン作 高見浩訳 (新潮文庫)


 心を閉ざすアンナが、湿地帯の屋敷のマーニーと出会い、成長する物語です。
 1967年の作品ですが、2014年にジブリによって映画化され話題になりました。

 新潮文庫から高見訳が、角川文庫から越前訳が出ています。どちらも新訳。
 私は新潮文庫で読みました。ヘミングウェイの高見訳が分かり易かったので。


思い出のマーニー (新潮文庫)

思い出のマーニー (新潮文庫)

  • 作者: ジョーン・G. ロビンソン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/06/27
  • メディア: 文庫



新訳 思い出のマーニー (角川文庫)

新訳 思い出のマーニー (角川文庫)

  • 作者: ジョーン・G・ロビンソン
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: 文庫



 アンナは喘息の発作が出たため、静養のために海辺の田舎町へ行きました。
 しかしアンナにとって問題は、喘息よりも心を閉ざしてしまっていることです。

 パーティーが楽しいのは内側にいる人間だけ。魔法の輪の内側にいる人間だけ。
 その点アンナは外側の人間だから、そういう楽しみとは無関係だと感じています。

 ところが、海辺の湿地帯で出会ったマーニーとは、すぐに親しくなり・・・
 アンナは初めて得た親友マーニーと、交流を重ねていくが・・・

 マーニーは何者なのか? 本当に実在する人間なのか?
 どうしてマーニーは消えてしまうのか? アンナに何が起こっていたのか?

 私はTV放映されたジブリの映画を見て、興味が湧いて本を手に取りました。
 映画はすばらしかったけど、原作はさらに感動的でした。

 原作を読んで理解できたことも多いです。たとえばマーニーについて。
 映画を見たあと、娘と一緒に考えましたが、よく分かりませんでした。

 しかし、原作では終盤で、かなりはっきりとその謎解きをしています。
 また、タイトルの「思い出の」という語句が、答えを暗示しています。

 ところで、これと似た物語に、ピアスの「トムは真夜中の庭で」があります。
 この作品も児童文学の傑作。オススメです。
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-11-21

 さいごに。(アクア・トト)

 先日の岐阜旅行で立ち寄った「アクア・トト・ぎふ」は充実していました。
 淡水魚の水族館で、世界中の珍しい淡水魚が、予想以上にたくさんいました。

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女ごころ [20世紀イギリス文学]

 「女ごころ」 モーム作 尾崎寔(まこと)訳 (ちくま文庫)


 美しい30歳の未亡人と3人の男たちが、フィレンツェで繰り広げる恋の物語です。
 モームの晩年の作品で、「真夜中の銃声」というタイトルで映画化されました。 

 ちくま文庫から2014年に出ています。
 訳は新しいので分かりやすくて、活字は読みやすいです。


女ごころ (ちくま文庫)

女ごころ (ちくま文庫)

  • 作者: W・サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫



 古都フィレンツェの町並みを見下ろす山荘に、美しい未亡人が住んでいました。
 彼女はメアリー。30歳。1年前に夫を事故で亡くしたばかりです。

 その日、メアリーを訪ねてプロポーズした、非の打ち所の無い紳士がいました。
 彼はエドガー。54歳。メアリーとは昔からの知り合いで 、政府の高官です。

 翌日、メアリーは公爵夫人の夕食会で、破廉恥で放蕩者の男と一緒になりました。
 彼はロウリー。30歳。いきなり、メアリーにプロポーズをする厚かましさです。

 この3人に、貧しいヴァイオリン弾きが加わり、物語は意外な展開に・・・
 最後にメアリーが選ぶのは・・・

 面白くて、あっという間に読み終わりました。さすがモームです。
 タイトルどおり、状況しだいで移り変わる女心が、繊細な筆致で描かれています。

 しかし、私が最も共感したのは、自堕落なプレイボーイのロウリー。
 彼も彼なりの信念を持って生きています。(P53)

 「知るかぎり、僕が自由にできる人生はこの一回だけ。とっても気に入っているよ。
 折角与えられた機会を活かさなかったら、それほどバカなことはないじゃないか。」

 さて、モームのフィレンツェものの作品は、ほかに「昔も今も」があります。
 チェーザレが登場する歴史小説で、私のお気に入りの作品です。

 「昔も今も」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-07-12

昔も今も (ちくま文庫)

昔も今も (ちくま文庫)

  • 作者: サマセット・モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫



 「女ごころ」というタイトルを見たとき、最初はエッセイかと思いました。
 「男ごころ」という、丸谷才一のナイスなエッセイがあるので。中古で1円です。


男ごころ (新潮文庫)

男ごころ (新潮文庫)

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1992/08
  • メディア: 文庫



 さいごに。(学級委員)

 娘が、後期の学級委員に選ばれたのだそうです。
 たいした仕事は無いといいますが、うちの娘に務まるのか心配です。

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ジゴロとジゴレット [20世紀イギリス文学]

 「ジゴロとジゴレット」 モーム作 金原瑞人訳 (新潮文庫)


 モームの真骨頂である短編小説のうち、ヨーロッパを舞台にした8編です。
 いずれも機知とユーモアに彩られていて、どこか悲哀を感じる作品です。

 2015年9月に新潮文庫から出たばかりの新訳で、とても読みやすいです。
 「月と六ペンス」も新訳が出たばかり。「雨・赤毛」の新訳も期待したい。


ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

  • 作者: サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: 文庫



 この本に入っている8作は、どの作品もピリッとした味付けがモームらしい。
 その中でも特に次の3作が、私的にはオススメでした。

 まず、「征服されざる者」は、最も衝撃的な作品です。
 第2次大戦中、ドイツ兵のハンスは、フランス娘アネットに乱暴を働きました。

 アネットの妊娠を知り、ハンスは彼女への愛情をつのらせていき・・・
 しかし、アネットの態度は変わらず、彼女が最後にとった行動は・・・

 次に、「マウントドラーゴ卿」は、最も奇怪で、印象に残った作品です。
 精神科のオードリン医師、外務大臣マウントドラーゴ卿が受診しました。

 マウントドラーゴ卿が、毎晩見る夢の中に出てくる男は・・・
 唯一の治療法を拒否したマウントドラーゴ卿は、とうとう・・・

 そして、「ジェイン」は、最も面白くて、イチオシの作品です。
 初老の女ジェインが、突然20歳以上も年下の男と結婚しました。

 義理の姉は、財産目当ての結婚かと疑っていましたが・・・
 デザイナーの夫によって、魅力を引き出されたジェインは・・・

 ほかにも、危険な芸当でお金を稼ぐ夫婦を描いた「ジゴロとジゴレット」
 や、結核患者の人間模様を描いた「サナトリウム」などが良かったです。

 ところで、この本や、「月と六ペンス」新版のカバーはカッコイイです。


月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)

  • 作者: サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 文庫



 しかし私は、旧版のカバーの方が、もっと上品でカッコよかったと思います。
 昔、初めてこのカバーを見た時は感動して、「全部読みたい」と思いました。

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 モームの「女ごころ」の新訳が、昨年2014年にちくま文庫から出ました。
 そのうち絶版になってしまうと思うので(?)、その前に読んでおきたいです。


女ごころ (ちくま文庫)

女ごころ (ちくま文庫)

  • 作者: W・サマセット モーム
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫



 さいごに。(町内運動会)

 昨日は町内対抗の運動会でした。今年もリレーのアンカーをやりました。
 昨年のようにはいかず、4位でもらって、4位のままゴール。びりでした。

 小学3年生のうちの娘は、4種目も出場して、どれも楽しんでいました。
 子供数が少ないうちの町内は、子供総動員という感じです。

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世界の十大小説2 [20世紀イギリス文学]

 「世界の十大小説」 モーム作 西川正身訳 (岩波文庫)


 モームが独自に選んだ世界十大小説の、作者と作品を解説したエッセイです。
 岩波文庫から出ています。訳は古いですが、読みやすかったです。


世界の十大小説〈上〉 (岩波文庫)

世界の十大小説〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: サマセット・モーム
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/10/16
  • メディア: 文庫



 モームが躊躇なく「天才」と呼んだ作家は、上巻に出ていたバルザックでした。
 では、「もっとも偉大な作品」といったら? それは「戦争と平和」のようです。

 「『戦争と平和』は、たしかにあらゆる小説の中でもっとも偉大な作品である。
 ・・・これほど堂々とした広がりを持ち、これほど重要な歴史上の一時期を扱い、
 これほど限りない数の人物を登場させた小説は、この作品以前には、一度として
 書かれたことがなかったし、今後とても、二度と再び書かれることは、おそらく
 あるまい。」(P238)

 「戦争と平和」は、まるで横綱のように、本書の最後に登場します。
 その解説からは、モームの思い入れが、ひしひしと伝わってきます。

 この壮大で長大な小説を、唯一無二の作品とする評価は、私もまったく同感です。
 いつか、じっくりと時間をかけて、もう一度読み通したいです。

 作者トルストイは作家としてはもちろん、人道主義者としても偉大な人物でした。
 彼の名声は日本にも伝わり、徳富蘆花などが当時ロシアまで面会に行っています。

 ところが、トルストイの人生を本書でたどってみると、一つの疑問が湧きます。
 それは、「彼はどこかで間違ってしまったのではないか?」ということです。

 というのも、彼は家族を幸せにはせず、家族から理解もされなかったからです。
 たとえ世界的な名声があっても、最も身近な人から支持されなければダメですよ。

 例えば彼は、自分の性関係の過ちを、婚約したばかりの妻に見せたりして。
 何も隠し立てなどできないという考えからですが、それはひとりよがりでしょう。

 トルストイは少し潔癖すぎるようです。こういう人は、とても付き合いづらい。
 しかし、だからこそ、聖人のように崇められるようになったのかもしれません。

 さて、ほかにもドストエフスキーやフローベールなど、変人が登場して面白いです。
 エミリー・ブロンテの章では、エミリーはともかく、彼女の父と兄は傑作でした。

 ところで十大小説には、デュマもゾラもトウェインもジェイムズも入っていません。
 そして、決して忘れてはいけない作家が、あと2人います。ゲーテとユゴーです!

 ゲーテは「若きウェルテルの悩み」が中編小説だから外されたのでしょうか。
 それなら、名作「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を入れてほしかったです。

 また、ユゴーの「レ・ミゼラブル」はどうして外されちゃったんでしょうか。
 きっとモームにとって11番目だったのでしょう。10という枠がある以上仕方ないか。

 そこで勝手ながら、モームの選んだ十作に「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」
 と「レ・ミゼラブル」を加えて、「世界の十二大小説」と呼びたい。

 内訳は、イギリス4、フランス4、ロシア2、アメリカ1、ドイツ1となります。
 バランスも、この方がいいのではないでしょうか。

 なお、「世界の十大小説」から影響を受けた、次のようなエッセイも出ています。
 参考までにどうぞ。私は目次しか見ていませんが。


二十世紀の十大小説 (新潮文庫)

二十世紀の十大小説 (新潮文庫)

  • 作者: 篠田 一士
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/04
  • メディア: 文庫



現代世界の十大小説 (NHK出版新書 450)

現代世界の十大小説 (NHK出版新書 450)

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 さいごに。(iPheneを勧められたけど)

 私がケータイを変えたがっているのを知った妻は、しきりにiPhoneを勧めてきす。
 iPhone同士だと何かと便利だそうですが、私はスマホにするつもりはありません。

 妻のiPhoneは、更新する度に変なアプリが登録され、しかも簡単に削除できません。
 更新した後、WiFiに接続できなくなることもしばしばだし・・・

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